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「椅らば大樹」-(3)

東京「中杉通りのケヤキ並木」

この夏の一日、東京で「売れない役者」をやっている三男の住まいを訪ねました。彼は大学を出た後「上京」して10年以上、舞台俳優を志して「悪戦苦闘中」なのです。オーディションや稽古や舞台、地方を巡っていることもありますが、演劇とは無関係の多くの生活時間があって、そんな時はいわばフリーターのアルバイターと言うのでしょうか、文字通りの貧乏暮らしを続けているわけです。西部新宿線「鷺宮」の住まいも演劇仲間との相部屋。木造二階建ての一階。天井は低い板張りに木枠のガラス窓、昔「男おいどん4畳半」と言う松本零児さんのマンガがありましたが、ソックリのすりきれた部屋に住んでおりました。彼に「大学を出た後は自力で暮らしなさい」と言って以来10年以上がたって初めて見る息子の住まいです。
 彼のアルバイト先であるJR中央線「阿佐ヶ谷」駅付近の洋酒販売店へ向かいました。商店街の裏側に平行してあったのが「中杉通り」です。杉並区役所前あたりから北上して早稲田通りと交差するあたりまでの約5kmに写真のような見事なケヤキの並木があります。阿佐ヶ谷駅前はちょっとした「森の広場」とも言えましょう。結構名のあるジャズメンが演奏していたりもするそうです。ここは日本の首都東京でも屈指の「緑の空間」、そして文化の薫り高い、少なくとも演劇志願の若者?にとっては夢の生活ステージに思えなくも無いようでした。この見事なケヤキにどのようなエピソードがあるのか、残念ながら判らずじまいですが、この見事なミドリに魅せられて住む人が大勢おられるようです。これをこそ町のネウチというのでしょう。

2008/09/26